八ヶ岳の赤い実

 

ピアノを27年近くぶりに再開した

数年前のことです。

 

再開してわずか2ヶ月で

先生に促され参加することになった

コンクールの予選で

思い切り失敗したことがあります。

 

暗譜はできていたつもりが

ついつい目を閉じ気持ちよくなって

不自然に手を鍵盤から離したら

まんまと着地点を見失い

あれよあれよと頭が真っ白に。

 

焦りますがどうしようもありません。

 

見失ったところから

何事もなかったように

即座に取り繕い演奏を続けます。

 

頭のなかは「あちゃ~、やってもた」と

泣きたいような

叫びたいような気持ちですが

再開した自分の音楽に集中して

演奏し続けます。

 

最後までなんとか弾ききるも

舞台で挨拶するなり

そのまま逃げ帰りたいほど

悔しいやら、せつないやら

複雑な気持ちでいっぱいだったことは

昨日のことのように覚えています。

 

私はまるで緊張とは無縁のように

他者から思われているようですが

まさかのまさか・・。

 

楽器演奏に関しては特に

最初の一音を出すまでに

なぜか意識を失いそうなほど

猛烈に緊張します。

 

それは、最前列に近い位置で

演奏を聴いている人々には

右肘がガクガクと震える様子が

手にとるように見えて

「あの人、大丈夫なの??」と

心配されるほど。

 

“今にも、泡を吹いて失神するんじゃなかろうか”

 

毎度、そんな風に

思われている状態です。

 

それでは参加をやめればいいのに

周りから促されることもありますが

そこにちゃんと同意して

「怖いけれど、やってみたい」

そう感じる自分もいます。

 

そうしちゃあ、本番間際に

ぶるぶる震えているわけです。

 

先述のような失敗は

決してあれ一回限りではなく

あちこちの予選で

またあれこれ失敗しながらも

毎回運良く予選をくぐり抜けた先にある

本選や全国大会でも

はたまた演奏会でも

何かしらはやらかしてきました。

 

ただ、これは自分自身の

気づきの範囲なのですが

間違ったり、止まった直後から

何かが振っ切れたような

憑き物が落ちたような

瞬間的にスイッチが入り

違う私になっているようで

音の響きや音楽そのものが

翼を羽ばたかせるように

一気にぐわぁ~んと

拡がるようなのです。

 

自分自身は「や~べ~???」と

ひたすら焦り

崖っぷちにいる心境なのですから

まるで検討もつかないですし

生きた心地がしていないので

思考はもちろん

感覚まですべて止まるか

どこかへ飛んでいるような状況です。

 

ある意味、開き直りとでも

言ったらよいのでしょうか。

 

「ええい!」となった感覚が

無意識に被っていた

何か自分を覆う薄膜のようなものを

突き破る感じなのかもしれません。

 

やらかした後の音の響きや演奏を

評価されることが

なぜか圧倒的に多いのです。

 

もしかすると

取って付けたような不要な部分が

失敗によってすべて吹き飛び

覆い隠すものがなくなって

裸一貫で勝負していることに

因るのかもしれませんし

残念ながら本人にはわかりません。

 

ただ、失敗を恐れず挑んだ先にある

自身の中の何かを突き破り

ひょいっと抜ける瞬間。

 

強烈な緊張感と裏腹にある

あの独特の感覚を味わいたくて

わざわざ毎回震える思いをしながらも

舞台で演奏することに

こだわっているのかもしれません。

 

今年は仕事により集中したく

一時的に楽器からは離れ

コンクールや演奏会とは

無縁の時間を過ごしていますが

 

親しい音楽仲間たちが

日本のあちこちで

最高の舞台を味わう瞬間を

迎えているであろう時期に際し

彼らにエールを送りつつも

ふと思い浮かべています。

 

挑んだ先で何が起ころうと

自分自身とただひたすら向き合い

己と闘い続けるなかで

またはその延長線上の先で

ふと何かを突き破る感覚。

 

やはり、あれを味わいたくて

怖がりながらも懲りずに

私は挑戦を続けているのかもしれません。

 

投稿者プロフィール

小松万佐子
小松万佐子こまつまさこ心理相談室(安曇野ルーム)心理カウンセラー
今日もお読みいただきまして、ありがとうございました。
皆さまが柔らかな心で一日過ごせますように。
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